熱力学の教科書を開くと、「粒子が界面を覆うと界面エネルギーが下がり、つまり界面張力が小さくなってエマルジョンが安定する」という筋書きがよく示されています。
ところが、今回の結果はその理屈と正反対に見える点が最大の驚きでしょう。
これは「熱力学の法則が間違っている」というわけではなく、磁性粒子の強い相互作用”という新たな要素が、従来の単純なモデルにはない複雑なエネルギーの帳尻合わせを行っていると考えられます。
そうした“例外的な条件”のもとでは、粒子が界面に入れば入るほど、境界面がむしろ引き締まり、壊したと思ってもすぐ元通りという、まさに“常識外れ”の現象が起こり得るのです。
本当に熱力学を破ったのか? カギは“磁力”にあった

今回の現象は、一見すると「粒子が油と水の境界に吸着すると界面張力が下がるはずだ」という従来の熱力学的常識を、正面からくつがえしているように見えます。
通常、教科書で学ぶシナリオでは、粒子が界面に入り込むことで油と水の“直接の接触面”が減り、結果として自由エネルギーが下がる=界面張力が下がる、となります。
しかしこの研究では、磁性粒子を使うと界面張力がむしろ高まり、「壊してもすぐに元の形に戻る」という不思議な振る舞いまで見られました。
これだけを見ると「熱力学の法則を無視しているのでは?」と思えてしまいますが、実はそこには“磁性粒子ならではの追加の相互作用”というカギがあります。
たとえるなら、ふだんの粒子は「油と水のあいだに入って、両者の不仲を緩和してくれる仲裁役」のようなものです。
ところが今回の磁性粒子は、ただの仲裁役にとどまらず「互いに強く手を取り合う巨大なグループ」を作っているイメージです。