リシャール氏とリゴー氏がベルリンでアムネスティ・インターナショナルのサイバー・セキュリティの専門家と会い、協力を呼びかけるくだりではこのプロジェクトで要求される機密性のレベルの高さがひしひしと伝わってくる。

そもそもの話として、二人はアムネスティ側の専門家たちを「本当に」信頼していいのだろうか?逆に、専門家たちにどうやって二人が嘘を言っていないことを信頼してもらうのか?

様々な困難を乗り越えて、リシャール氏らのチームは世界各国の政府が人権活動家、政治家、ジャーナリストらを監視し、弾圧や言論の封じ込めに利用していた実態を明らかにしていく。

「利便性が高すぎる」ソフト

ペガサスによる監視行為とその波紋は、決して過去のものではない。

筆者は、毎年4月、イタリア・ペルージャで開催されるペルージャ・ジャーナリズム祭でペガサス・プロジェクト関連のセッションに参加してきた。

昨年4月のセッションについては、以前にこのコラムでも伝えている。携帯電話をペガサスに侵入されたジャーナリストらが体験談を語ったセッションである(「ペガサス・プロジェクトから3年経ち、規制は実現するのか、それともさらに道は遠いのか」)。

この時、ズームで参加したアムネスティのアニエス・カラマル事務局長の発言を再掲してみると、ペガサスのようなソフトは「簡単にはなくならない」という。「新しいテクノロジーであるために完全に排除するための法律や規制が追い付かない」。

また、対象者に気づかれずに監視するソフトはこれを使おうとする側にとっては「利便性が高すぎる」ので、全面的な禁止への動きができにくいという。

昨年、ペルージャ・ジャーナリズム祭でのリシャール氏(Diego Figone氏、撮影)

ポーランドでは

ポーランドの前与党「法と正義」(PiS)は、政権担当時に野党政治家や活動家の監視にペガサスを使用した疑惑が指摘されている(同党は否定)。