しかし、ペガサスは別次元の話になる。

「基本的に相手のスマートフォンを乗っ取る」のがペガサスだ。

「暗号化を含むセキュリティを破って相手のスマートフォンに不正侵入し、スパイウェアの存在を知られることなく、端末をほぼ意のままにできる。スマートフォンを使って送受信したあらゆるテキスト、通話内容、位置情報、写真、動画、メモ、閲覧履歴だけではない。ユーザーに感づかれることなく、カメラとマイクロフォンも起動できる。ボタンを押すだけで、遠隔操作による完璧な個人監視が可能になる」(「世界最凶のスパイウェア・ペガサス」)。

NSOによれば、サービスは「法執行機関と諜報機関による使用を目的に、主権国家にしかライセンスされない」という。

しかし、世界の様々な国の政府がテロ撲滅や犯罪者を捕まえるというレベルをはるかに逸脱し、批判的勢力を粉砕するために使っている可能性もあるだろう。

フォービドゥン・ストーリーズは流出したデータと調査によって、NSOと取引があると思われる11カ国を割り出した。アゼルバイジャン、バーレーン、ハンガリー、インド、カザフスタン、メキシコ、モロッコ、ルワンダ、サウジアラビア、トーゴ、アラブ首長国連邦(UAE)である。

その後のトロント大学の「シチズン・ラボ」の調査によれば、ペガサスは23カ国で導入されている。欧州ではハンガリーのほかにポーランド、ドイツ、ベルギー、スペインなど。

「自分が監視の対象になるわけはない」。そう思っていても、「誰か」がペガサスの監視対象になり、「同じ会議に出ていた」「空港にいた」などの理由で、自分や友人、家族に監視の輪が広がらないとも限らない。

監視対象者が自分が監視されていることを全く感知できない状況とはいったいどんなものか。スパイウェアの威力に、本書のページを捲るのが怖くなるほどだった。

どうやって証明する?

「最凶」と表されるペガサスによる監視の事実を、いったいどうやって「証明」してゆくのか。そして、いったい何ができるのか。スリラー小説のような展開で、物語が進んでゆく。