アメリカでは週に一度は何らかの形で服用している成人が23%もいるという統計もあり、まさに世界的に最も一般的な鎮痛薬のひとつといえます。
友人との飲み会の前にちょっとした頭痛を抑えるために飲むこともあれば、仕事中に熱を我慢できずに一錠……という具合に、ほとんど無意識のうちに使われている薬と言えるでしょう。
こんなにも多くの人が使っているならば、その影響が「感情」にとどまらず「重大な意思決定や行動の選択」にまで波及している可能性は見過ごせません。
たとえば、運転中の判断や、投資などで大きなお金を動かす際の度胸の加減、さらには手術などの医療行為を選択する場面でも、リスク感や不安感が薄まったまま判断すると、思いもよらないミスや後悔が生まれるかもしれないのです。
アセトアミノフェンが持つこの意外な心理的影響に、多くの研究者や医療関係者が注視するようになってきました。
そこで今回、研究者たちは「アセトアミノフェンを飲むと、本当にリスクの高い行動をとりやすくなるのか」を実験的に検証することにしたのです。
さらに、「そんな行動の変化はどういう心理的メカニズムによって起こるのか?」「危険度をどのように認知しているのか?」を詳細に調べるため、複数の実験やアンケートを組み合わせ、参加者たちの意思決定を隅々まで観察していきました。
痛みだけでなく怖さも止めるアセトアミノフェンの衝撃

研究チームは、まず複数の実験で合計500名以上のボランティアを対象に、二つのグループに分けました。
一方のグループには「痛みに効く成分入り」のアセトアミノフェンを、もう一方には「ただの水かもしれない」偽薬(プラセボ)を飲んでもらいます。
しかも、どちらを飲んだかは当の本人も、実験を担当するスタッフもわからないように工夫されています。