熱や頭痛を感じたとき、ごく自然に手に取る鎮痛薬アセトアミノフェン。

実は、多くの国で最も一般的に使われるこの薬が私たちのリスク感覚を変え、いつもより大胆で危険な行動を引き起こすかもしれない——そんな驚きの研究結果が、アメリカのオハイオ州立大学(OSU)で行われた研究によって明らかになりました。

この研究では、3つの実験にわたり合計545名以上のボランティアが参加し、いずれの実験も1,000mg(Extra Strength相当)のアセトアミノフェンを1回投与して検証しています。

日常生活で頻繁に服用されるこの薬が、私たちの意思決定にどのような影響を与えているのでしょうか?

研究内容の詳細は『Social Cognitive and Affective Neuroscience』にて発表されました。

目次

  • 薬が感情にまで効く? アセトアミノフェンの謎
  • 痛みだけでなく怖さも止めるアセトアミノフェンの衝撃
  • なぜアセトアミノフェンで恐怖が薄れる? 脳と薬の深い関係

薬が感情にまで効く? アセトアミノフェンの謎

世界で最も一般的な鎮痛薬が「心の怖さ」を消し去りリスクをとらせる
世界で最も一般的な鎮痛薬が「心の怖さ」を消し去りリスクをとらせる / Credit:Canva

アセトアミノフェンという薬は、多くの人にとって「頭痛や発熱が起きたときにまず手を伸ばす安心の相棒」です。

夜中に不意に電気が消えたとき、どこにあるのかもはっきり覚えていないのに、探せば意外とすぐ見つかる懐中電灯のように、いつも生活のそばにある存在といえるでしょう。

そのおかげで、実際にどんな作用をもっているのかを深く考える機会はあまりありません。

薬局で買った総合感冒薬や市販の頭痛薬の成分表をよく見ると、アセトアミノフェンが配合されていることがほとんど——つまり、わたしたちは意識していないだけで、頻繁にこの薬に助けられているのです。

ところが近年の研究では、アセトアミノフェンが「身体の痛み」をやわらげるだけでなく、「心の痛み」や「感情の強さ」にまで影響を及ぼす可能性がある、と注目されるようになりました。