たとえば、人間関係のトラブルで落ち込んだときの“心の痛み”や、他人の苦しみを見たときに共感する気持ちが、アセトアミノフェンを服用すると弱まるかもしれないというデータが出てきたのです。
さらに驚くことに、ネガティブな映像を見たときの嫌悪感だけでなく、ポジティブな画像を見たときのワクワク感までも“少し鈍くなる”のではないかという報告があり、つまりこの薬はわたしたちの「感情全般」を少しだけ麻痺させる効果をもつ可能性があるのです。
この「感情を緩和・鈍化させる」作用が話題になる理由は、私たちの行動が感情に強く左右されているからです。
よく「理屈ではわかっていても、感情が追いつかない」などといいますが、実際、リスクのある状況でどこまで踏み込むかは、論理よりも“怖い・怖くない”といった感情が決め手になることが多いのです。
もしアセトアミノフェンによって「不安」や「恐怖」といったネガティブな感情が弱まってしまうと、私たちが危険を危険と感じにくくなる恐れが出てきます。
実際、リスクを好むか嫌うかは「アフェクト・ヒューリスティック」という考え方でも説明されています。
これは、難しい計算をしなくても“直感的な感情”で判断してしまう人間の特性です。
たとえば、少しでも不安を感じれば「これは危ない」と足を引っ込めるし、逆に「面白そう!」と胸が高鳴れば多少の危険を冒してでも行動してしまう。
つまり、アセトアミノフェンのように感情を鈍くする薬は、この“怖い or 楽しい”という直感スイッチを誤作動させる可能性があり、結果として「まぁ大丈夫だろう」と高を括って、破裂寸前の風船にさらに空気を送り込むような行為に踏み切ってしまうかもしれません。
さらに、アセトアミノフェンは19世紀末から研究が始まり、20世紀に入って鎮痛・解熱薬としての地位を確立し、今や「約600種類以上の市販薬」に含まれると言われるほど幅広く流通しています。