今回の研究では、まずタンパク質繊維を紫外線レーザーで刺激し、そこから放出される極めてかすかな光を高精度で測定するというやり方がとられました。
イメージとしては、暗い部屋に浮かぶ無数のホタルがピタリと息を合わせて一斉に光る瞬間を、高速カメラで捉えるような感覚に近いかもしれません。
実際の測定結果を見ると、タンパク質の分子同士が“超放射”という特殊な状態で協調しながら光を発し、その放出速度が「量子の世界で考えうる最速レベル」に肉薄していることがわかったのです。
これまでは、生体環境のように熱や雑音が多い場所で、量子現象がここまで明瞭に保たれるとは考えにくいとされてきました。
しかし今回の結果は、室温というごく普通の環境下でも、わずかピコ秒(1兆分の1秒)以下の単位で分子同士が連携して光を放つ可能性を示しています。
この結果は先に述べたように細胞のタンパク質繊維が「マルゴリス=レヴィティン速度限界」に近いスピードで状態変化を起こせる可能性を示唆しています。
もし生命がこれほど高速な情報処理を実現しているとすれば、従来の脳神経モデルをはるかに超える“演算速度”を自然に持ち合わせているかもしれません。
そう考えると、この発見がいかに革新的かがわかるでしょう。
なにしろ、量子コンピュータの世界でもなお挑戦的な目標とされる速度に、生物が普通の環境下で到達しているのですから。
今後、こうしたメカニズムを応用すれば、量子計算のブレークスルーや新たなエネルギー利用技術の開発にもつながるかもしれません。
まさに、生体レベルの量子現象がどこまで“本物”なのかを実験的に示す、刺激的な一歩だといえるでしょう。
地球規模の情報処理と私たちの存在意義
