しかし、この中空円筒は「導体と磁場を完全には同期させない」ように設計されているため、電子の動きが完全に止まることなく、ごく微量ながら連続的に電気を取り出せる仕組みを理論的に期待できるのです。

実験では、まずこの中空円筒を地球の磁場の方向に対して直交する向きにセットします。

地球は一日一回転していますから、円筒と磁場のあいだには僅かながらも相対的なずれが生じます。

そこで筒の両端に高感度の電圧計をつないで微弱な電圧を記録すると、数マイクロボルトというごく小さい数値ですが、間違いなく直流電圧が測定されました。

さらに注目すべきは、円筒を180度回転させると、この電圧がプラスからマイナス、もしくはマイナスからプラスへと反転する点です。

逆に、円筒の軸を地磁気と平行になるように向けると、ほぼゼロの値に戻ってしまいます。

これらの結果は、理論が予測していたとおりの振る舞いであり、「わずかなずれを意図的に作ることで、電子の流れが打ち消されずに残る」ことを実験的に示唆しているのです。

また、同じマンガン亜鉛フェライトでも“中が詰まった固体の円柱”を使うと、ほとんど電圧が検出されませんでした。

この比較実験からは、“中が空洞かどうか”が大きなカギになっていることがわかります。

言い換えれば、内部が空いていることによって、磁場の中を移動する電子の経路がより複雑かつ柔軟になり、打ち消されずに流れが発生しやすくなるという考え方です。

こうした特性のおかげで、中空の円筒形マンガン亜鉛フェライトが「地球の自転と磁場を利用して電気を引き出す」という、一見夢のように思えるアイデアを、わずかながらも現実のものとして実証できたわけです。

もちろん、取り出せる電圧や電流は非常に小さく、すぐに実用的な発電装置になるわけではありません。

とはいえ、長年“不可能”とされてきたテーマに対して、「実際に数マイクロボルトではあるが連続的に電気を得られる」という確かな証拠を示せた点は極めて大きな前進です。