農業評論家の土門剛氏は、「農家のサインもないまま、調査費用を税金から計上するのか」と農水省統計部に問いただしているが、いまだに明確な返答はない。こうした中、農水省の作況調査において「空出張」疑惑も浮上している。空出張とは、実際には行われていない出張に対して経費を請求する不正行為だ。農水省は過去にも、不正な経費処理や統計の不備をめぐって批判を受けたことがあり、調査への不信感はいっそう強まっている。

非公開・主観・時代遅れの三重苦

データの非公開性も、作況調査への信頼を損なう大きな要因である。農水省は、作況指数の根拠となるデータについて外部からの検証を拒んでおり、そのため統計手法の改善が進まない。一方、アメリカ農務省は基礎データを公開し、民間の専門家による検証を通じて統計精度の向上を図っている。さらに、同分野では競合する民間サービスも存在し、政府統計との間で切磋琢磨がなされている。それに対して、日本の農水省は閉鎖的な体質を温存し、不透明な運用によって杜撰さを覆い隠している。こうした姿勢が、調査への不信を一層深めている。

長年、現場の農家から指摘されてきた「ふるい目」の問題も深刻だ。農家は通常、1.8〜2.0mmのふるいを用いて小粒やくず米を除いているが、農水省が定める「平年収穫量」の基準はいまだに1.70mmで固定されたままである。この基準の更新は長らく行われておらず、農家の実態と乖離した状態が続いている。その結果、統計上の収量と現実の収量との間にズレが生じ、収量誤差を助長している。こうした農水省の硬直的な統計運用により、市場に対する信頼性は低下する一方だ。

平年収穫量は、「栽培前に気象や低温・日照不足などの被害が平年並みであると仮定し、直近30年間の実収量から10aあたりの収量を予測し、作況指数の基準とする」と定義されている。しかしこの方法は、統計学的にはすでに時代遅れと言わざるを得ない。異常気象が常態化している現在において、「平年並み」という前提は極めて非現実的であり、この仮定と実際の気象条件との乖離が、予測と実収量の間に大きな誤差を生む原因となっている。すなわち、仮定の前提と現場の実態が乖離し、統計の信頼性を損ねているのが現状だ。