農水省によるランダム標本の抽出方法そのものも、統計学的に見て疑問が残る。たとえば、コメ生産量日本一の新潟県では370筆が調査対象とされているのに対し、石川県では185筆にとどまっている。しかし、新潟の水稲作付面積は石川の約5.5倍にものぼるにもかかわらず、標本数はわずか2倍程度にすぎない。この偏った配分について農水省に理由を尋ねても、「昔からそうしている」とするばかりで、納得のいく説明は得られない。新潟の予測が外れれば全国の需給や価格に与える影響は極めて大きいにもかかわらず、調査設計の見直しは一向に進んでいない。
コメ生産量1位の新潟県と2位の北海道における統計上の問題は、全国の作況指数に大きな歪みをもたらしている。両県の作付面積はほぼ同等(新潟が北海道の1.07倍)であるにもかかわらず、調査対象となるサンプル数は、新潟370筆に対し北海道は600筆と、1.62倍にも達している。この不均衡は、サンプルの選定基準が曖昧であることに起因し、調査の精度を損ねる要因となっている。さらに、異常気象の影響も補正されておらず、両地域で収量誤差が拡大すれば、広大な作付面積を背景に、全国の統計値に与える影響は極めて大きくなるリスクがある。
品質無視と杜撰な現場運用の実態
作況指数に品質差が反映されないという問題も見過ごせない。たとえば、新潟県の2023年の作況指数は「98(やや不良)」とされたが、実際には猛暑の影響で品質が大きく低下した。コシヒカリの一等米比率は5%未満と過去最低を記録し、例年の80%前後から大幅に落ち込んだ。白濁粒や胴割れが急増し、歩留まりが下がったことで、食用米として出荷可能な量も大きく減少した。にもかかわらず、農水省はこの品質低下を作況指数に反映させず、結果として供給量を過大評価してしまった。
現場で行われる作況調査には、深刻な欠陥がある。水田の借地化が進むなかで、耕作者が不明な圃場が増加しており、その場合には代替圃場の選定が現場の裁量に任されている。この運用は、農水省調査の根幹である「ランダム性」を大きく損なうものだ。さらに、調査後に水田農家からの確認サインが不要とされており、本当に適切な調査が行われたのかを検証する手立てがない。こうした運用では、適当に選ばれた圃場データが混入しても、そのまま統計に使われるリスクが極めて高い。