リベラルな主張で「免疫」がついているはずの人でも、あとから現れた権威主義的な物語に意外と揺さぶられるのです。
また、政治リテラシーが高い層や、陰謀論への親和性が低い層でさえ、その影響から完全に免れられるわけではありませんでした。
なぜこの研究が革新的なのか?
まず、一度の研究で多彩なトピックを扱ったり、ストーリーの出所や提示順を細かく変えたりといった手法により、SNS時代さながらの複雑な情報環境をできるだけ再現した点が大きな特徴です。
また、日本という、中国やロシアに比較的近く、しかも戦後の民主化を経て「民主主義が当たり前」という社会意識が根づいた国で検証したことで、欧米だけでは見えなかった「権威主義的な情報の説得力の正体」に迫れたといえます。
さらに興味深いのは、政治知識が豊富な人ほどプロパガンダには強いという従来の想定を揺るがす結果が示されたことです。
むしろ知識量が多い人ほど、既存メディアや主流の主張に対する批判的視点は持ち合わせている一方、新たな視点で提示されたストーリーを“裏の裏”まで吟味しきれずに取り込んでしまう可能性があるのかもしれません。
こうした複数要因の分析を通じて、「誰がどんな情報に弱いのか」をより立体的にとらえたという点こそ、本研究の革新的な部分といえるでしょう。
日本の自由は脆いのか?

今回の一連の実験でわかったのは、権威主義的なストーリーが私たちの意見を動かす力を予想以上に持ちうるということです。
しかも、「政治に詳しい人なら安全」「陰謀論を信じがちな人だけが影響される」という単純な図式には収まりません。
日本では特定のグループだけが危険なのではなく、誰もが一定のリスクを抱えている可能性を示しているのです。
また、最初にリベラルな言説に触れていても、その後にやってくる権威主義的な主張のほうを強く信じてしまう現象も看過できません。