この7つの指標がほとんど全部、第90百分位以上で、多くは第90百分位後半になっているという事実は、アメリカ株が異常なほど過大評価されていることを示しています。そしてついに、この7指標の総合評価が、1929年の大恐慌勃発直前よりひどい過大評価となったのです。
1929年のアメリカは自動車文明の最先端を走り、いたるところで衰退の兆候が露呈していた覇権国イギリスから世界覇権と基軸通貨の発行元という地位を奪おうとしていた隆盛期にありました。
それでも、1930年代を通じた大不況の到来を免れることはできなかったのです。既に爛熟期を過ぎて衰退期に入っているアメリカで、株式市場全体の評価が1929年以上に過大だとしたら、その過大評価を是正するプロセスははるかに大きな負担を国民に強いるでしょう。
なお「この7指標のうち企業の成長性を採り入れた評価は実績PERと予想PERの比較だけで、その他は完全に成長性を無視した基準になっているので、急成長を続けている企業にはほとんど意味のない指標ばかりだから気にすることはない」という反論もあります。
この批判はまったく見当外れです。1企業にとっても国民経済全体にとっても、2~5年先にどの程度の成長を遂げているかを定量的に判断するための計量モデルは存在しません。これから出航する海図なき航海について「出航前に航海日誌をつけておけ」と言っているようなものです。
せいぜい10~30年先まで見とおしたとき、ある企業なり国民経済なりが成長性の高いポジションにいるであろうか、それとも低いポジションにいるであろうかの定性的な判断はできる程度のことだと思います。
長期的に見れば成長する企業・国民経済か、低迷する企業・国民経済かは判断できるのに、2~5年先という中期予測ができない最大の理由は、最終的には夾雑物でしかない経済金融政策の影響が、中期ではかなり大きく成長経路を上下に振り回すからです。