相手国が米国への輸出を諦め、代わりにドメスティックな消費や(防衛力増強を含む)設備投資への支援に集中する場合、米国には関税の影響が為替調整を貫通して消費者を直撃する間、相手国は財政拡張で金利高通貨高、という組み合わせになる。

このように相手国が最適関税理論から逸脱するコースはいくつもあるため、最適関税率まですんなりと関税を上げられるようには思われない。

関税の消費税性

高関税政策の目的として幼稚産業保護論の文脈から「国内産業の振興と雇用創出」も挙げられることが多いが、最適関税理論においてこれらの効果はあくまでも副次的なものである。

繰り返すようだが、それよりも海外から税を毟れること自体が大事なのである(米国内から税を集める合衆国内国歳入庁Internal Revenue Service, IRSに対して”External Revenue Service”とも表現される)。

前回の記事でもカナダ、メキシコへの関税はフェンタニル対策のためではなく、毟ること自体が目的ではないかとの問題提起を行った。実際、両国への広範な関税は3/4から発動されており、その本気度は金融市場を驚かせた。

相手国が通貨切下げも値下げもしてくれない世界でも、関税は本当にインフレーショナリーだろうか。

相手国が通貨切下げも値下げもしてくれない世界では関税は「米国政府が相手国から課徴する税」から「米国政府が米国消費者から課徴する輸入品限定の消費税」にシフトする。「関税=消費増税」という発想の存在はベッセントと上院議員のやり取りの中でも確認できる。

もちろんベッセントは「相手国が通貨切下げや値下げでデフレを輸出してくれるから消費税ではない」と言い張っており、この主張は「関税はインフレーショナリーではない」にも変換される。しかし現実には相手国が100%被ってくれるわけではない以上、関税は幾分かは輸入品の消費増税的な色合いを持たざるを得ない。もちろん、一部でも相手国が払ってくれるなら、消費増税よりは米国の国益にとっては遥かにプラスである。