第一次トランプ政権が始まるまで米国の平均関税率は世界的に見ても極めて低かった。第一次トランプ政権は1%台だった平均関税率を3%まで引き上げ、第二次トランプ政権が公約で掲げた「10%以上の一律関税と中国からの輸入品に60%の関税」はこれを更に17%程度まで引き上げる。

「最適関税20%説」はこれを正当化するというわけである。

第一次トランプ政権の関税

1930年代は遠すぎるとして、第一次トランプ政権の関税引上げが米国経済にもたらした影響については、既に数年前の出来事なので研究が進んでいる。

1. Who’s Paying for the US Tariffs? A Longer-Term Perspective (NBER, 2020)

物価への影響:リセッション判定で有名な全米経済研究所(NBER)のこの論文では2018-2019年の貿易戦争で米国が課した関税が輸入品の価格にほぼ完全に転嫁されたと結論づける。関税を導入した後、輸入価格は上昇し、特に時間が経つにつれてその影響が顕著になった。これは企業がサプライチェーンを見直すのに時間がかかるためである。ただし鉄鋼など一部のセクターでは外国輸出業者が価格を大幅に下げたため、関税の影響が緩和されたケースもあった。

コスト負担者:関税のコストはほぼ全て米国企業と消費者が負担したとしている。中国側が価格を下げて関税を吸収する動きは限定的で、結果として米国内の輸入業者が関税分を支払い、それが消費者に高い価格として転嫁された。為替レートの変動(人民元の下落)が一部影響を相殺した可能性は認めつつも、主要な負担は米国側にあると結論づける。

2. Trump Tariffs: Tracking the Economic Impact of the Trump Trade War (Tax Foundation, 2024)

物価への影響:ワシントンD.C.の税務調査シンクタンク「Tax Foundation」のこのレポートは、トランプ政権が2018-2019年に約800億ドル規模の関税を課したことで、米国消費者が輸入品に対して高い価格を支払うことになったと述べている。関税が製造業の生産コストを上昇させ消費財価格にも影響を及ぼしたと指摘する。ただし、関税による経済全体への影響はGDP比でみれば大きくない(0.2%押し下げ)とも評価している。