おそらく、さらに気候が変動する中で、より資源の豊富な地域へ移住したか、あるいは同じ高原内で適応を続けながら別の集団と混ざり合った可能性も考えられます。
しかし、その詳細を確定するためには、今後の遺伝子解析や他の考古学的証拠との統合的な研究が不可欠だといえるでしょう。
いずれにせよ、本研究で最も示唆的なのは、従来「不可能」とされていた時期と場所においても、わずかな地形的・気候的利点に柔軟に頼りながら、洗練された技術と社会的行為をもって生き抜いた古代人類の姿です。
これは、私たちが思っている以上に人類が多様な条件に適応できる存在であることを示すと同時に、過去の環境変化に対するレジリエンスの高さを再評価させる重要な発見です。
今後は、他地域の遺跡との比較やさらに深い層での調査によって、この地域での居住が季節的なものだったのか、年間を通した定住に近いものだったのか、そして彼らのその後の移住や集団形成がどのように進んだのかという、より詳細な生活実態の解明が期待されます。
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元論文
Human Response to Cold Climate: First Evidence from the Tibetan Plateau during the Last Glacial Maximum
https://doi.org/10.1016/j.qsa.2025.100269
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部