最近の研究によって、オーカーの化学組成や微細構造の分析が進むにつれて、古代の集団間での交易や文化交流の証拠が見出されるなど、その用途の広がりが明らかになりつつあります。
尺食料であり、儀式の材料であり、装飾品であり、接着剤や保存料でもありと多岐にわたる用途があったオーカーは、石器と並び人類が存在した有力な証拠なのです。
しかし先にも述べたようにチベットは最終氷河期極大期には居住不可能なほど過酷な地域でした。
もし本当に、この“居住不可能”と思われていた時代と場所で人類が生存していたとすれば、従来の考えを根底から覆す発見となります。
そこで今回研究者たちは、新たに発掘された遺物(骨や木炭、石器など)を詳細に分析し、放射性炭素年代測定や気候復元など多角的な手法を用いて、この謎を解き明かすことにしました。
調査に当たってはまず、南チベット高原のPengbuwuqing(PBWQ)遺跡を徹底的に掘り下げ、骨・木炭・石器・赤い岩石(オーカー)など合計427点の遺物を回収しました。
これらの遺物は多くが土中に埋まっており、発掘時にはそれぞれの層の深さや位置関係を正確に記録していきました。
ここでのユニークな点は、ほかの高地考古調査に比べて細かい層位(地層の重なり)を丁寧に区分し、複数地点から試料を採取したことです。
こうすることで、出土品がどの年代に属し、どのような環境で使われていたかをより正確に推定できるようになりました。
次に、掘り出した木炭や骨に含まれる放射性炭素(^14C)を調べる「AMS(加速器質量分析)法」という年代測定技術を用いて、人類がいつごろここに住んでいたかを特定しました。
従来の放射性炭素年代測定より少量の試料で、かつ高精度に年代を割り出せるため、巨大な加速器を使った最先端の測定システムといえます。
その結果、約2万9200年前から2万3100年前にかけて、少なくとも3回にわたって人類が同じ場所で生活していたことが判明しました。