一方、最終的に彼らがこの地でどうなったのかについては、研究者たちは「H2寒冷事象」の到来によって急激な気候変化が起き、一度は居住が途絶えた可能性があると述べています。
H2寒冷事象(Heinrich Event 2)とは、最終氷期極大期に起きた一連の「ヘインリッヒ事象」のうちのひとつです。
ヘインリッヒ事象は、北半球の巨大氷床が崩壊した氷塊(icebergs)のように海へ流れ込んで、大量の氷塊が北大西洋に拡散した時期を指します。
氷塊が大量に海へ流れ出すと、塩分濃度や海流の流れが急激に変化し、結果として世界規模で気候に大きな影響がもたらされるのです。
最終氷期極大期はそれ自体が地球がとても寒冷だった時期ですが、ヘインリッヒ事象が起こると、さらに一時的に気温が下がったり乾燥が進んだりして、いっそう厳しい環境になると考えられています。
特に、H2寒冷事象(約2万4500〜2万3000年前頃)は、最終氷期極大期期の中でも“寒さの底がさらに深まった”ような特異なエピソードだったといえます。
つまり、「最終氷期極大期の中にあっても、さらにガクッと気温が落ち込む短期的な寒波があった」とイメージするとわかりやすいでしょう。
たとえば、川の流域など比較的住みやすい環境がわずかに残っていた場所でも、H2寒冷事象が到来すると、動植物資源のさらに激しい減少や急な乾燥化が発生した可能性があります。
最終氷期極大期自体が厳しい時代だったのに加え、この事象が追い打ちをかける形で、一時的に人々が移動せざるを得なくなったり、居住を続けられなくなったりしたと考えられます。
こうした短期間の気候変動が、当時の人々にとっていかに大きな脅威であったかを、H2寒冷事象は示唆しているのです。
その後、約2万3700〜2万3100年前ごろに再び人々が戻ってきた形跡があるものの、最終氷期極大期が終わった後に彼らがどこへ行き、どのように暮らすようになったかは明確にはわかっていません。