「バイデン政権で本当に生活が苦しくなった。卵が買えない。」ということが、あたかも最近の「日本でキャベツが高騰して買えない現象」のように米国で取りざたされているが、「とにかく普通に卵が買いたい」という庶民に寄り添うスタンスが彼の政策の中心にある。

減税や財政支出増は、一見、現状のインフレを悪化させ、更に庶民生活を苦しくする方向にも働きかねないが、そうさせないための究極の一手が、政府の効率化だ。とにかく、何か改革をしようとすると抵抗する役人どもの首をどんどん切り、イーロン・マスク氏を送り込んでの上記のUSAIDやNASAへの支出のカットが有名になっているが、政府への支出を大胆に削減することで、インフレを防御し、減税や財政支出の原資を獲得しようという意図が透けてみえる。

いわゆるテクノ・リバタリアンたちの重用・政府への送り込みもこの文脈で理解できる。乱暴に言えば、守旧派の巣窟のような政府などいらない、というのがその眼目である。

さらには、減税や財政支出の減資として、実は有益なのが関税だ。関税の引き上げは、英語ではback door VATと言われたりもするが(VATは消費税の略、value added tax)、形を変えた(裏口からの)消費税の引き上げにも見える。ただ、そう言ってしまうと、低所得者層の味方にならないので、もちろん、そうは言わない。したがって、裏口というわけだ。

海外からの輸入を差し止めて、国内での生産・増産を図るべく、つまりは、中低所得者層の雇用を守るために、中国やカナダやメキシコからスタートして各国に対する関税を上げるというのが表向きの文脈だ。

ただ、その実、少なくとも短期的には、税収を上げる政策にもなっている。関税を払ってまで海外のものを買うのは輸入側のアメリカの業者やその増税分を上乗せされた消費者であり、まさに「バックドア消費税」である。

そして、典型的な白人アメリカ人中低所得者層を守る上で最も重要なのが、不法移民の取り締まりである。安い労賃で、単純労働を必死に引き受ける彼ら・彼女らの存在は経済的にも脅威であるし、治安上の懸念も感じさせるものであり、トランプ氏が支持基盤とする典型的アメリカ国民の排外主義に火をつけている。