例えば、被験者が幼少期に熱気球に乗ったことがあるかのように編集された写真を見せたところ、被験者の約50%が、その経験を実際に体験したと信じ込み、細かいディテールを思い出し始めたのです。
この研究は、視覚的な情報がいかに記憶の捏造を促進するかを示し、ロフタス博士の研究と同様に、偽記憶が形成されるメカニズムの一端を明らかにしました。
この結果は、写真や映像などの証拠が持つ影響力の大きさを示しています。特に現代は簡単に写真を加工できるようになったため、そのリスクはかなり大きくなっていると言えるでしょう。
こうした研究報告は、心理学における「抑圧された記憶の回復」(無意識に忘れていたトラウマ的な記憶を、後に治療や催眠を通じて思い出すこと)に対しても問題になると議論が起きています。
特に、セラピーの過程で誤った記憶が植え付けられ、実際には存在しない虐待の記憶が生み出される危険性が指摘されるようになりました。
ロフタス博士の研究は、記憶の変容が単なる言葉の影響にとどまらず、より深い個人的体験にも及ぶことを示しました。
彼女の研究について『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』を説明できると紹介している書籍もあります。
脳はなぜ偽の記憶を作り出すのか?
このような偽記憶の形成には、脳のいくつかの重要な領域が関与していると考えられています。
特に、海馬(hippocampus)と前頭前野(prefrontal cortex)が大きな役割を果たしていると見られます。
海馬は記憶の形成と想起に関与しており、新しい情報を整理し既存の記憶と結びつける働きをします。
一方、前頭前野は情報の選択や統合を行う機能を持ち、矛盾のある情報が入ってきた場合でも、一貫した物語を作り上げようとする傾向があります。
また、脳は記憶を静的に保存するのではなく、再構成しながら思い出すという特性を持っています。
このため、外部からの誤った情報や誘導的な質問によって、脳内の記憶が書き換えられ、偽記憶が生じるのです。