そんな狭い隙間の向こうに空洞がある営巣場所をよく見つけたものだと感心します。
阿形像を見つけた二ホンミツバチの群れは、新しい引っ越し先にとても満足して住み着きました。
参拝する人がいるため敵の少ない、そもそも敵の入り込みにくい仁王門です。二ホンミツバチにとってはまさに極楽浄土だったことでしょう。

最初に二ホンミツバチが住み着いたことに気づいたのはどなただったでしょうか。當麻寺の方か、参拝者の方か。
しかし、そこはお寺です。仏教の教えで殺生ははばかられます。二ホンミツバチを駆除するわけにはいきません。さて、これはどうしたものか……。
思案しているうちに月日はどんどん過ぎていきました。二ホンミツバチはのどかに繁栄していましたが、阿形像はその分、汚損が進んでいきました。内部の巣に使われる蜜ろうだけでなく、外側にまで二ホンミツバチの排泄物などがついてしまい、手入れできないままになっていたのです、
お寺としての信仰も、仏像も、生態系も守りたい。何人ものプロの助言のもと、ついに當麻寺のある自治体、葛城市が動きました。
二ホンミツバチには強制的に引っ越ししてもらうことに決まり、汚損した阿形像の頭部から二ホンミツバチの巣を取り出して修復することになったのです。
こうして令和3年度より5か年計画で「市指定文化財 當麻寺 木造金剛力立像 修理事業」が始まりました。まずは阿形像から、引き続いて吽形像。
仏教が国教となったことで技術者が国家公務員となり、結果的に芸術表現の上がった仏教建築や仏像。木彫仏像は寄木造りと内部の空洞化で表現の自由度がぐっと上がりました。
大きく、豊かな表現でリアルな表情を持つようになった金剛力士立像はしかし、二ホンミツバチにとっては営巣に都合のよい空洞の木材にしか見えていませんでした。とはいえ、こんな存在にも仏さまは慈悲を与えるんですね……。