なぜ「尻に顔」を作るほどの進化が起こったのでしょうか。

シロアリの防御態勢はとても厳重ですが、今回のクロバエの幼虫はそんな社会に受け入れられていました。

シロアリの巣は、温度や湿度が安定していて、食料も豊富なとても快適な環境です。

その一方で、いったん侵入者とみなされると、兵隊シロアリの攻撃を受けて命を落としかねません。

この大きなリスクに対処するため、幼虫は姿や匂い、さらには行動面までシロアリそっくりに合わせる“究極の擬態”を進化させてきたのだと考えられます。

しかも、このタイプのシロアリは機能的な目をもっているため、化学擬態だけでなく見た目の擬態にも気を配らなければなりません。

そこで“お尻にシロアリの頭そっくりの偽の顔”を作ることで、視覚や触覚の両面で敵対的な反応を回避できるようになったのでしょう。

こうしてシロアリのコロニーからすると、幼虫はまるで仲間のように見えるうえ、コロニーの匂いさえ完璧にコピーしているので、不自然な存在だと気づきにくくなっているのです。

とはいえ、この関係が本当にただの「社会寄生」なのか、それとも何かしらのメリットをシロアリ側に与えているかは、まだわかっていません。

シロアリは幼虫に餌を分け与えているように見えますが、幼虫がシロアリにとって有益な存在である可能性を示す証拠は見つかっていないのです。

とはいえ、排泄物など幼虫が出す何らかの物質がシロアリに良い影響を与えている可能性もあり、その点は今後の研究課題となっています。

さらに、今回の発見によって、シロアリの巣で暮らすハエがフトヒゲブユ科(Phoridae)だけでないことも明らかになりました。

クロバエ科というまったく別の系統が、独自にシロアリ社会へ“潜入”する進化を遂げていたのです。

しかも、両者の系統は約1億5千万年以上前に分岐したとされ、社会性昆虫との共生や寄生が異なるグループで繰り返し起こってきたことを示唆しています。