この幼虫を綿密に観察すると、その“尻”にはシロアリの頭部そっくりの構造があり、目のように見える部分は実は呼吸孔(気門)であることが分かりました。

さらに体には多数の触手状の突起があり、走査型電子顕微鏡による観察でシロアリの触角に非常に似た形状を持つことが明らかになったのです。

巣の内部では視覚よりも匂いによる認識が重視されますが、この幼虫を分析すると、コロニーのシロアリとほぼ同一の化学成分をまとっているばかりか、同じシロアリ塚内で微妙に異なる匂いの違いすら“コピー”していることが判明しました。

実際に巣の餌室で観察すると、幼虫はシロアリに囲まれて“口移し”で餌をもらっているような行動や、グルーミング(体の清掃行為)を受けている姿が確認され、まるで仲間として扱われているように見えました。

ただし、この関係をより詳しく探ろうと巣ごと研究室に移動してみても、幼虫は成虫になる前に死んでしまい、生態の多くは依然として不明のままです。

その後の遺伝子解析によって、この幼虫がクロバエ科(Calliphoridae)のRhyncomya属(亜科Rhiniinae)に属することがわかりました。

かつては「Prosthetosomatinae」という亜科として扱われた可能性があるグループですが、今回の解析ではRhiniinaeに再分類されることが示唆されています。

これまでシロアリの巣に深く入り込むハエとしてはフトヒゲブユ科(Phoridae)がよく知られていましたが、クロバエ科のグループが同様にシロアリ社会へ“潜入”する例は極めて珍しいのです。

しかも、両者はおよそ1億5千万年以上前に分岐した全く別の系統であり、社会性昆虫との関係をそれぞれ独立に進化させた可能性が高いと考えられます。

このように、シロアリ社会の頑強な防衛網をかいくぐり、しかも巣の一員として受け入れられるというユニークな進化は、社会性昆虫の多彩な生態を改めて浮き彫りにする興味深い事例となっています。

なぜ尻に“顔”が必要?