しかし、昆虫界には社会性昆虫の巣へ巧みに寄生・共生する例がいくつも存在します。
アリの巣では、コオロギやカブトムシがアリの運ぶ食料を盗んだり、寄生バエが産卵して幼虫を育てたりするケースが知られています。
シロアリの巣に限っても、フトヒゲブユ科(Phoridae)のハエが働きシロアリに擬態して潜り込む事例が報告されていますが、クロバエ科(Calliphoridae)が同じようにシロアリ社会へ高度に統合しているという報告は極めて珍しく、今回の研究は非常に貴重な発見となりました。
今回注目されたのはシロアリの一種「Anacanthotermes ochraceus」という種類です。
夜間や薄暮に地上へ出て植物の種子や草などを集めるため、機能的な目を持つという点が多くのシロアリと異なります。
加えて、コロニー内部では視覚だけでなく化学物質(匂い)でも仲間同士を識別するため、視覚と嗅覚を併用した強力な防衛システムを備えていると考えられてきました。
にもかかわらず、シロアリの巣に紛れ込み、しかもシロアリに世話までされるようなクロバエ幼虫の存在は、私たちの常識を覆す現象として大きな注目を集めています。
“尻に顔”を持つ幼虫の正体
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研究チームがこのクロバエの幼虫を初めて発見したのは、モロッコ南部のアンティアトラス山脈で蝶やアリを調査していた際の偶然でした。
雨が多く、蝶が飛ばないために石をめくってアリを探していたところ、シロアリの巣が見つかり、その内部で奇妙な姿をしたハエの幼虫を3匹だけ発見したのです。
その後、同じ地域を再調査(合計3回の遠征)しても追加で見つかったのはわずか2匹だけで、しかも別のシロアリ塚にいたという稀少さから、研究者たちはより詳しい分析を行うことにしました。