しかし英子さんは、信隆じいさんがガンで苦しんでる病床で看病しながら、「Hくんに譲るべきだ、宏明に譲るな」って言い続けて、で根負けした信隆さんは、死ぬ直前に「妻への感謝の手紙」みたいなのを書くんですが、その手紙の最後の三行ぐらいに、「Hくんが成長したら美術館を任せたい。年寄りのワガママとして許してくれ」っていう文章を書いちゃうんですよ。

でも、その美術館ってただの美術館じゃなくて、その美術館運営会社がフジサンケイグループの親会社になって支配権を成立させてるんで、全くもって「ただの死にゆく老人の小さなワガママ」みたいな話では全然なくなって。

で、死んだ次の日から葬式の喪主をどうするか、みたいな話で英子さんと宏明さんがガチでモメはじめ、「公的な遺言書」には「喪主は宏明」って書いてあったのに、英子さんはその「妻への感謝の手紙」の最後の数行を突きつけて「私が喪主です!」ってやりはじめるという(笑)

普通に法律論議をすると、「公的な遺言書」の方が圧倒的にパワーがあって、「私的な手紙」とかは無力なはずなんですが、そういう正論をいう弁護士は徹底的に遠ざけられて、英子さんのまわりには英子さんのいうことを全面肯定する弁護士と一部の親族が集まって「反・宏明闘争」を開始するんですね。

英子さんは「Hくんがさらわれるんじゃないか」と思って、Hくんを家(彫刻の森美術館の隣にある邸宅)から4年半の間一歩も出さないようにしてしまったとか、とにかくこの「昔の上流階級の女性が持ってる”自分は特別”的なエゴの暴発っぷり」がすごく印象的でした。

で、日枝久さんのグループは、この「鹿内家の内紛」を背景として、宏明さんを追い出して「労働組合出身の幹部グループ」によるフジサンケイグループ全体の支配を確立することになるんですね。

この本は、その経緯がものすごくものすごく詳しく(調査力が超すごいです)書かれているだけでなく、信隆じいさんの戦前のめちゃくちゃな活躍っぷりも描かれていて、本当に面白いのでぜひ一読をおすすめします。