このように、政治的な分野に限らず、職場や地域コミュニティ、あるいはファン同士の集まりなどでも、偏見を刺激する方法は有効だと考えられます。
人は常に「自分に近いもの」に惹かれやすく、自分の信念を補強してくれる言葉を発する相手には、つい好感を抱いてしまいます。
したがって、短期的に信頼を勝ち取る戦略としては、相手の偏見に寄り添う言動を取ることが合理的に働く場面があります。
しかし同時に、こうした心理メカニズムが前面に出過ぎると、アウトグループとの対立が深まりやすいというリスクも浮上します。
社会的アイデンティティ理論が示すように、イングループを強く意識すればするほど、他のグループを排除・否定しやすくなります。
これは長期的に見れば、関係性の破綻や対立の激化を招く可能性が高く、今回の研究が提示する「偏見を利用するコミュニケーションの功罪」の一端を如実に表しています。
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元論文
Partisan language in a polarized world: In-group language provides reputational benefits to speakers while polarizing audiences
https://doi.org/10.1016/j.cognition.2024.106012
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部