「相手の偏見に寄り添った発言をすれば、すぐに信頼を勝ち取れる」――こう聞くと、どこか危うく感じる人も多いかもしれません。

偏見は、差別や誤解、対立を生む原因として、一般的にネガティブに捉えられてきました。

しかし、人の心理には「自分に似た考えを持つ人」に好感を抱きやすいという傾向があるのも事実です。

たとえば、政治的な立場やイデオロギーを共有する話し手には、私たちは思わず耳を傾け、結果として大きな信頼を寄せがちになります。

なぜ、そうした現象が生まれるのでしょうか?

この背景には、社会心理学でよく知られる「類似性―魅力効果」や「社会的アイデンティティ理論」などが大きく関わっていると考えられています。

人は自分と同じ「グループ」だと認識する相手を自然と味方だと感じ、逆に「違うグループ」と判断した相手には拒否感や不信感を抱きやすいのです。

つまり、何らかの偏見や先入観を共有している(あるいは共有しているように見える)相手には、好感だけでなく信頼までも高めやすいというわけです。

しかし、一方で「偏見の利用」には当然ながらリスクが伴います。

相手との関係を一時的に強化する一方、他のグループとの対立や誤解を深める可能性もあるのです。

また、こうした手法が倫理的に正しいかどうか、長期的な信用を損なうのではないかという懸念も拭えません。

アメリカのブラウン大学(Brown)で行われた研究は、特に政治分野での「党派的言語」の使い方を例に、偏見を活用したコミュニケーションがどのように信頼や評判を左右し、さらに意見の分極を促進するかを検証しています。

その結果には、政治だけにとどまらず、私たちの日常における対人関係にも示唆を与える多くの要素が含まれているのです。

本コラムでは、「相手の偏見に寄り添うこと」がなぜこれほど強い効果を発揮するのか、心理学的メカニズムと併せて詳しく解説していきます。

同時に、こうした「心理操作」とも呼べるテクニックの活用に潜む危険性や、長期的視野で考えた場合に生じうる問題にも触れつつ、最新の研究が示すヒントをお伝えしていきましょう。