これは、ポピュリスト政治家がよく用いる「自分はエリートではなく、国民の側にいるのだ」というメッセージを、視覚的にわかりやすく提示する戦術にも合致します。
指差しの背後にある心理的効果を考えると、いくつかのレイヤーが見えてきます。
まず、外向きの指差しが示す「攻撃対象」や「称賛対象」の明確化は、聴衆の感情を短時間で盛り上げる強力なツールです。
誰を“味方”とし、誰を“敵”として位置づけるのかを、トランプ氏自身の声と同時にジェスチャーで示すことで、聴衆の感情的反応をより直接的に引き出せるというわけです。
一方、内向きの指差しで自分自身を示す行為は、言葉以上に「自分が強いリーダーである」という印象を植え付けるものとなります。
胸に手を当てつつ「私がやる」「私こそが責任を持つ」と語る姿は、政治家としての信頼感や使命感をアピールしやすいだけでなく、感情移入を起こしやすい場面を作り出します。
認知言語学や社会心理学では、「フレーミング(framing)」によって人々の理解や態度形成が大きく変化すると言われます。
たとえば、トランプ氏が「あなたたち」を指差しつつ「私たちは勝利する」と宣言する場合、聴衆は自身を“勝者の一員”と捉えるフレームを自然と受け入れやすくなります。
一方、「敵対勢力」を指し示して強い言葉で非難する場合には、「彼らは自分たちの脅威だ」というフレームが提示され、聴衆は怒りや不安と結び付けて認知する可能性が高まります。
また演説者との“自己同一化”が進むと、人はその演説者の主張を積極的に受容しやすくなります。
内向き指差しを使った「私はこう思う」「私自身がやるんだ」という主張が繰り返されることで、トランプ氏を「信頼できる人物」や「自分を体現してくれる人物」と捉える聴衆が増える可能性があります。
さらに、外向き指差しで「あなたたちも一緒だ」といった呼びかけを行うと、聴衆は「自分もこの集団の一部である」という認識を強化しやすく、演説者と同じ感情や世界観を共有していると感じるようになります。