政治家が演説や討論会などの公式な場でジェスチャーを用いることは珍しくありません。

こうしたジェスチャーは、長らく「言葉を補う付随的な動作」とみなされがちでしたが、近年の研究ではむしろ「聴衆に与える印象の重要な要素」であると再認識されています。

たとえば、イギリスの議会討論での身振りやアメリカ大統領選挙のテレビ討論会に注目した先行研究によって、政治家が意図的に手の動きをタイミングよく利用し、発話内容を強調することで、支持者からの拍手や賛同を引き出している事例が多く報告されています。

特に、過去の討論会を素材にした研究では、右手でテンポよくリズムを刻む「ビート・ジェスチャー」や、指を揃えて相手を指し示す「ポイント・ジェスチャー」が、聴衆への説得やメッセージの強調にどのように機能しているかが分析されてきました。

では、なぜジェスチャーがこれほどまでに聴衆に強い影響を与えるのでしょうか。

一つの説明として、身体言語が脳の認知処理と密接に関連していることが挙げられます。

心理学の研究によれば、ヒトは視覚情報に対して極めて敏感で、話し手がどんなふうに手や腕を動かしているかを無意識的に読み取ることで、その人の真剣度や信頼性、または攻撃性や親しみやすさなどを素早く判断する傾向があります。

また、指差しなどの明確な指示的ジェスチャーは、聴衆の注意を瞬時に特定の対象へ向ける効果があることが知られています。

政治家が「あなた」「彼ら」「ここ」といった言葉と同時に指を向けると、聴衆は言葉と映像を結びつけ、より強く「誰が味方で、誰が敵で、今どこに注目すべきか」を体感的に理解しやすくなるのです。

こうした理解は感情レベルでの共感を促進し、熱烈な支持や強い反発といった反応を生み出す要因となります。

今回の研究で中心的に扱われたのは、2016年4月18日にニューヨーク州バッファローで開催された、ドナルド・トランプ氏の大規模選挙集会の映像です。