しかし、ジェスチャーを体系的に分類し、具体的な心理学的インパクトと結びつけて考察する研究はまだ十分とはいえません。

そこで本記事では、トランプ氏の指差しを対象にした分析を参照しながら、「どのような方向性やタイミングで、どんな言語表現と組み合わせて行われるのか」「それが聴衆に対してどのような心理的影響をもたらすのか」を紹介します。

さらに、ここでは認知言語学や社会心理学の知見を組み合わせ、指差しの形や頻度がどのように説得力や攻撃性、あるいは聴衆との一体感を生むのかを考察することを目指します。

政治的コミュニケーションというテーマは多角的なアプローチが可能ですが、本記事では特に「心理効果」という観点から、トランプ氏のジェスチャーの意図とその成果を探っていきます。

心理学に興味を持つ読者の方にとって、政治スピーチの舞台裏で繰り広げられる非言語コミュニケーションの妙を知ることは、説得理論や認知バイアスに関する理解を深めるうえでも有意義でしょう。

次章以降ではまず、政治スピーチにおけるジェスチャーの一般的な役割を概観し、その後に指差しというジェスチャーの特徴を詳しく説明します。

そこから実際のデータと方法、分析結果を示し、最終的に心理的観点から考察を行いながら、トランプ氏の指差しがもたらす説得・動員効果について結論づける流れをとります。

私たちが普段見過ごしがちな“指先”の動きには、政治的メッセージを補強する巧妙な仕掛けが隠されているかもしれません。

研究内容の詳細は『Social Semiotics』にて公開されました。

目次

  • トランプ流ジェスチャーの科学
  • ジェスチャーの天才「トランプ」の魔法
  • 悪用禁止のトランプ流心理操作のジェスチャー術

トランプ流ジェスチャーの科学

もしトランプ氏の代表的な写真をあげるとしたら、すくなくない人が「指差し」をしている画像を選ぶでしょう。

それほどまでに、トランプ氏と「指差し」はセットで見られることが多くなっています。