しかし、結婚し子産み子育てをしながら、自分の能力をフルに発揮して責任ある仕事もしたいという当然の願いを持つ女性にとって、その願いを聞き届けてくれる職場がこんなに少ない国は、いわゆる先進諸国の中では他には存在しないのです。
やっと日本の労働力市場にも、この事実がじわじわ影響を及ぼしはじめました。
最近やっと海外に永住する日本女性の数が男性の2倍近くになりました。しかし、私に言わせれば日本女性は忍耐力がありすぎます。日本の雇用条件、就労環境の劣悪さを考えれば、3~5倍どころか10~20倍になっていても、全然おかしくないでしょう。
さらに、少なくとも正規総合職採用であれば男女を問わず、よほど働きが悪ければ解雇もあるが、だいたいにおいて定年まで安定して昇進・昇給の見こめる仕事を続けられることになれば、それは強力な少子化対策になります。
現在東京都23区内で子育てをしている世帯の半分が977万円以上という非常に高い年収を得ています。夫だけが正規雇用という世帯では、夫が特殊技能を持っていて高給取りでなければ、事実上不可能と言える所得水準でしょう。
でも夫婦ふたりとも正規雇用ならどうでしょうか。ひとりが400~500万円、もうひとりが500~600万円というのは、それほど非現実的な水準とは思えません。
私がごくふつうの公立小中学校に通っていた1950年代後半~1960年代前半をふり返ると、たまに友だちのうちにお邪魔して、ご夫婦とも小中学校の教師をしておいでのご家庭だと、子ども心にも余裕のある暮らし向きでいらっしゃることがわかりました。
公立の小中学校の教員の給与ですから突出して高いはずはなく、むしろ大企業の男性従業員に比べれば低かったかもしれません。でも夫婦揃って正規雇用の所得があれば、当時から余裕のある生活はできていたのです。
経済全体がサービス化した現在、女性の感性の鋭さ、人当たりの柔軟さ、そして同じことばを聞き、文章を読んだときの文脈解釈力の高さに対する需要はますます高まり、正規雇用の給与水準を要求して当然の職能となっているはずです。