ただ、私には、この逃げ腰外交は「戦略的」に見える。戦略的逃げ腰外交と書くと、何やら矛盾しているように感じるかもしれないが、もう少し分かりやすく書くならば、「キジも鳴かずば撃たれまい」戦略ということになる。
現在、日米間には正直、あまり分かりやすい大きな課題はない。もちろん、日本製鉄によるUSスチール買収問題など、日本政府としてわが国企業をしっかり支えるべき課題はあるが、特にトランプ側から見て、山積する各種課題に比べれば、さほど大きな問題とは言えない。
トランプ大統領やその周辺にとって、外交上最大の課題は、中国への対抗、特に当面、関税をどのようにかけるか、それに対して中国がどう反応してくるか、ということである。グリーンランドやパナマ運河といった問題も取り上げ、中国への対抗をむき出しにしている。
そのほか、メキシコやカナダとの移民や関税の争いも大変なことになりそうである。更には、ウクライナとロシアの紛争にどうケリをつけるか、イスラエルとハマスの停戦の向こう側をどうするのか、などの難題が控えている。日本のことなど、ほぼ念頭にない可能性がある。
そういう事情なので、ノコノコ出かけて行って、防衛費負担増その他、変に問題を喚起してしまって要求を突き付けられるような事態は避けたいと考えるのは普通であって、「キジも鳴かずば撃たれまい」とばかりに、逃げ腰になるのは、ある意味理解できる。
上記の5分問題などをあげつらって、日本のプレゼンスが低いと論難するメディアも散見されたが、これまでの対米逃げ腰外交は、現実的には妥当な戦略であると評価することができる。
とはいえ、ずっと逃げ回っているわけにもいかないので、今回の訪米⇒日米首脳会談となるわけだが、逃げ回っていた間に色々と調べ(トランプ氏と懇意である孫氏と2時間半食事をして事情を聴くなど)、考え抜いた成果を是非うまくぶつけて欲しいと思う。
故安倍晋三氏がうまくやったように、日本は、米国の各国との争いの中で「オアシスだ」と感じさせるように、うまく友達になるのが得策であるとは思う。上記で分析したとおり、「相性」の問題はあるだろうが、人と人というものは、不思議な化学変化が起きるものであり、意外に、全然違う思考様式同士で、案外気が合ったりすることもないわけではない。その成果に期待したい。
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