著者はスタートアップがたやすくなったと見ているが、これもある部分だけを見ているようだ。「人々の意識が、大企業よりスタートアップ」に移動している!でも現実には、様々な支援制度の“充実”にもかかわらず、スタートアップ数、VCの資額、IPOの件数、いずれも伸び悩んでいる(拙著『The NEXT』第1章~第2章を参照)。
ビジネス
2025/02/05
【書評】 佐藤典司 『資本主義から価値主義へ』:情報化と価値論①
メガチェンジが既に生じている。しかし、社会主義には向わない(評者も同意見)。その理由は、情報化が進んでいて、しかもその価値は使用する人によって違う相対価値だから、「国家が予測し計画生産をすることはほとんど不可能」(P.95)だからだ。かつての社会主義計算論争※2)を思い起させる。
※2)社会主義陣営の主張する計画経済が可能なのかどうかを巡る論争。1920~30年頃に多くの経済学者が参加したが、計算不可能を主張するほうが優勢であった。
第4章~第5章情報化が進展すると消費者市場がどう変化するか(第4章)。生産・労働市場がどう変化するか(第5章)。ここは簡単に済まそう。第4章の冒頭で協調しているのは、私的所有⇒共有型への移行だ。所有形態の行方は大きな検討課題である。それは未来社会の骨格を決めるものだからである。
もうひとつ。日本の消費者物価が上昇しないのは情報化によるシェアリングの進展で消費が伸びないからだ。これは興味深い論点だ。著者は、急成長しているAirbnbを例に挙げている。宿泊に提供される登録数は600万件になるという。
「2000年前後からのデジタルネットワークの進展が、わが国の消費者物価の不気味なほどの下方圧力に一役かった可能性も否定できない」(P.107)。
もうひとつ著者の発見がある。それは限界効用の決まり方がモノと情報では違うこと、すなわちモノでは個人的に、情報では社会的に決まることだ(P.112~113)。
物の限界効用は、例えばケーキが3個あれば3個目で決まる。ここでは一人が食べるわけだが、情報では個人には2個目はいらない。おなじ情報が3回流れるとき、その3回目を得た人がそれにつける効用が限界効用になる。だから、社会的なのだ。ここは、第2章で示した、“情報はエネルギーの様相”にかかわる論点だ。
第6章~第7章関連タグ