しかし日鉄はこの記述に対して「当社は新疆ウイグル地区内で活動したことはなく、この指摘は事実ではない」と発表した。昨年4月の出来事だった。HA社はこの否定を受け容れる形で昨年4月以降は当初の報告書からこのウイグル地区での日鉄の活動に関する部分は削除した。
日鉄はこのHA社の報告書全体についても「不正確な点が多い」と言明した。同時に自社と中国との関係については「現在では我が社全体の活動において中国での活動はその5%ほどに過ぎない」と述べ、中国との特別の絆などを否定した。
そしてさらに日鉄の動きが日米両国間で注視される最中の昨年7月、大きな展開が報じられた。日鉄が長年の中国での合弁会社「宝鋼日鉄自動車鋼板」との合弁事業を解消すると発表したのだ。同社の中国側のパートナー「宝山鋼鉄」の親会社は世界の鉄鋼最大手「宝武鋼鉄集団」である。この鉄鋼最大手は日鉄が長年、全面協力してきた宝山製鉄所の後身というわけである。
日鉄はこの合併解消の理由について、中国市場では日系自動車メーカーの電気自動車への対応が遅れ、自動車向け鋼板の需要が減ったことを挙げていた。
しかし、この合併解消もアメリカで日鉄のUSスチール買収が難航し、その主要な理由が日鉄と中国との結びつきとされている時期の真っ只中で起きたことには政治的な計算も推測された。「中国との絆はもうないのだ」という米側に向けての誇示とも受け取れるわけだ。
だが、いずれにしてもこの「解消」によって日鉄と中国との多層重層の相互依存がなくなったわけではない。なお日鉄の中国側との他の合弁企業が残っていることはブラウン議員の報告書の指摘通りのわけだ。
さらに日鉄は現在も中国との経済関係の拡大に極めて強い熱意を見せている。中国政府がその対日政策で中日友好7団体の1つとして重視する日中経済協議会の歴代会長には一貫して日鉄のトップが就任してきた。
そして日中経済協議会は日本側の財界代表を集め、東京の中国大使館や北京の中国政府関連機関を定期的に訪れ、経済面での日中友好の促進に努めている。アメリカ側からみれば「日鉄と中国との特殊な絆の保持」として映る現状なのである。