日鉄が1970年代から中国側に鉄鋼事業の全てを教え、資金を提供し、上海に製鉄所を建設した経緯は広く知られている。ゼロに近い中国の鉄鋼業を日本側は日鉄が先頭に立ち、日本政府までが巨額の政府開発援助(ODA)を投入しての援助は今からみれば異様な観さえあった。
日本が育てた中国の鉄鋼業は日本をも凌駕し、全世界の覇者ともなった。鉄鋼の隆盛は当然、国力、軍事力の強化にも結びつき、日本側は自国への脅威となるモンスターを育てる結果となった。
この日中鉄鋼の絆は、山崎豊子氏の小説「大地の子」でも美談として描かれた。その日中鉄鋼合体が今、同盟国のアメリカから批判的にみられ、日鉄のアメリカ進出への障害とされるという展開は歴史の皮肉といえるだろう。
ブラウン上院議員のバイデン大統領宛の書簡は日鉄と中国政府の絆に関しては米側の民間調査機関「ホライゾン・アドバイザリー(HA)」による調査結果を引用する部分も多かった。
HAはアメリカ政府や議会から委託されることの多い調査・研究機関で、中国の動向など国際的な戦略課題をその主対象として、ここ20年ほど活動してきた。今回はアメリカ議会の委託で日鉄と中国当局との関係を詳しく明らかにする報告書を昨年3月に作成した。
同報告書は「構築された友好:日鉄、中国、そして産業基盤のリスク」と題され、日鉄と中国との鉄鋼分野での結びつきを歴史的かつ詳細に記していた。そして結論として日鉄(その前身の八幡製鉄なども含めて)は中国政府、その国営の鉄鋼業界と全面的に組んで中国の経済や軍事の発展に寄与しており、その現状はアメリカの安全保障にとって脅威だと断じていた。その上で日鉄によるUSスチール買収は米側への脅威や危険をもたらすと結論づけていた。
このHA報告書で特に注視されたのは、日鉄が中国政府の新疆ウイグル地区でのウイグル人弾圧に加担する形で同地区に支所を設け、鉄鋼関連の生産や販売を推進している、という指摘だった。この指摘はブラウン議員のバイデン大統領宛の書簡にも主要部分に記載されていた。