例えば、2023年12月には当時の連邦議会上院の最有力メンバーともみなされたJ.D.バンス議員(後の副大統領)、マルコ・ルビオ議員(後の国務長官)、ジョッシュ・ホーリー議員(若手保守派の論客)という共和党3議員が「外国投資委員会」を主宰する当時のジャネット・イエレン財務長官宛に書簡を送り、同委員会がこの買収計画に断固として反対の意向を表明することを求めていた。
こうした背景で最初に日鉄が中国政府と密接な関係にあることを主要な理由として公式に反対を明確にしたのは、議会上院の銀行委員会の委員長だった民主党シェロッド・ブラウン議員(オハイオ州選出)だった。ブラウン議員はオハイオ州を代表して下院議員7期、上院議員3期を務めた民主党のベテランで、バイデン政権への影響力も大きかった。
そのブラウン議員が昨年4月、バイデン大統領宛の公式書簡で日鉄の買収計画への反対を改めて明確に表明し、その主要な理由として日鉄が中国共産党政権と密接な関係にあることを指摘した。
日鉄は中国の国有、国営企業とのつながりを通じて中国人民解放軍にも事実上の協力をしており、その人民解放軍こそが今のアメリカにとっての最大脅威なのだ、という主張だった。
ブラウン書簡は以下の諸点をあげていた。
日鉄は1978年以来、中国の近代鉄鋼業の誕生を全面的に指導し、援助して、以来50年近く中国の鉄鋼産業とは基本的に一体となってきた。その結果、日鉄はアメリカにとって深刻な脅威となる中国の産業政策、軍民融合、さらにはグローバルな経済覇権追求にもかかわることになる。
日鉄は現段階で中国国内合計9ヵ所の施設で全体あるいは一部の活動にかかわり、中国側の数社と提携を続けている。中国側との合弁企業としては「北京首鋼国際工程技術有限公司(BSIET)」が代表例である。BSIETの親会社は中国側の鉄鋼大手「北京首鋼社」であり、同社は米側の国防支出権限法の定義では「中国軍事企業」とされる。日鉄はその中国軍事企業とパートナーシップを保っていることとなる。
アメリカ政府は日鉄と中国当局との関係を徹底して調査すべきである。なぜなら中国こそがアメリカの国家安全保障にとって最大の脅威であり、危険であるからだ。その脅威である中国がアメリカの産業基盤を根底から侵食する可能性がある。その最大の脅威に日鉄という日本の大企業が深く関与しており、その日本企業がアメリカの主要鉄鋼企業を買収するという事態は重大である。
以上の骨子は日鉄と中国当局の半世紀に及ぶ密接な絆が明らかに今のアメリカにとっても脅威となるという認識に基づいていた。日本側でこれまで報じられてきた買収計画への米側の反対理由では表面に出てこなかった重要な要因だといえる。