以上述べたことを前提に、立花氏が竹内元県議の死亡の直後に、「竹内氏が警察に逮捕されることを苦に命を絶った」などとYouTubeで発言したことについての「死者の名誉毀損罪」による処罰の可能性について検討する。
まず、名誉毀損罪は親告罪であり、1項の犯罪については、その行為によって社会的評価を低下させられた被害者の告訴が処罰の要件とされている。2項の「死者の名誉毀損罪」については、遺族・子孫の告訴がなければ処罰できない。したがって、竹内氏の遺族による告訴がなければ、そもそも、死者の名誉毀損罪による処罰は問題にならない。
立花氏の投稿の内容は、「竹内元県議が、犯罪の疑いで警察の任意取調べを受け、近く逮捕される」という事実を摘示するものであり、竹内元県議の社会的評価を低下させるものであることは明らかであり、「名誉毀損」に該当する。
最大の問題は、「虚偽の事実の摘示」の故意が認められるかどうかである。
この点に関連する経緯を、時系列的に整理する。
(ア) 竹内元県議は、斎藤元彦氏のパワハラ問題等に関する百条委員会の委員として、斎藤氏を追及していた。 (イ) 11月1日、兵庫県知事選挙が告示され、立花氏が、当選を目的としないで立候補し、斎藤元彦候補を支援することを表明した。 (ウ) 立花氏は、街頭演説で、竹内氏について、「元県民局長の告発文書の作成に関わった」などと批判。「でっちあげをしていた。元県民局長の奥様に代わって、百条委員会あてにメールを送った」「姫路市のゆかた祭りについて、パワハラについてのデマをまき散らした」などと述べたり、SNSで投稿したりした。 (エ) 兵庫県知事選挙で、斎藤氏が当選、同日、竹内元県議は、家族への誹謗中傷等を理由に議員辞職。 (オ) 議員辞職後も、竹内氏側への誹謗中傷は継続。 (カ) 18日、竹内氏が自宅で死亡。 (キ) 19日、立花氏は、「明日県警に逮捕される予定だった。それを苦に命を絶った。」と投稿。 (ク) 新聞各紙が、「県警関係者が竹内氏の任意取調べも逮捕の予定も全面否定」と報道。同日、立花氏が上記投稿を削除。 (ケ) 20日、村井県警本部長が県議会で、竹内氏の任意取調べや逮捕の予定を否定。 (コ) 同日、立花氏は、YouTubeで「竹内県議会議員が自ら命を絶った理由が、警察の逮捕が近づいていて、それを苦に命を絶ったことは間違いでした。これについては訂正させていただきます。そして謝罪させていただきます」と発言。 (サ) 立花氏は、投稿削除後も、「竹内氏は、警察の捜査を受けるのが当然だった。警察が捜査していなかったとすれば警察の怠慢」「メディアは相変わらず誹謗中傷が原因とか。誹謗中傷で何で死ぬねんって話じゃないですか」などと述べて、誹謗中傷による自殺を否定。
立花氏に「未必の故意」は認められるか
そこで、前記の判断要素(ⅰ)~(ⅲ)に照らして、立花氏に「虚偽の事実の摘示」についての「未必の故意」が認められるかどうかを検討する。