このとき、キツネに対して調教などは一切せず、純粋に遺伝的なかけ合わせのみによる変化を観察しています。
加えて、近親交配のしすぎで遺伝子に支障が起きないよう、定期的に他の農場から同じ性質を持つキツネを集めて、それぞれのグループ内に導入しています。
その結果、世代を経るごとに1つ目のグループのキツネたちはますます人懐っこさや従順さを増していき、野生のギンギツネとは大きく異なる穏やかな性質を持ち始めました。
そしてついにキツネたちは中身だけでなく、見た目も大きく変貌させ始めるのです。
ついに「見た目」まで激変し始めた!
実験開始から5年が経つ頃、従順さを増したキツネたちに行動面での大きな変化が表れます。
人に対して甘えた鳴き声を発したり、積極的に手を舐めたり、自ら仰向けになってお腹を撫でさせたり、犬のように尻尾を振り始めたのです。
またこれらの行動は子供だけでなく、大人になっても続けられました。
そしてキツネの子供たちが10世代になる頃には、中身だけでなく見た目まで変わり始めたのです。
ギンギツネは黒と白の体毛がスタンダードなのですが、グループ内でも特に従順で大人しいキツネたちは赤茶色の体毛に変わっていきました。
それから大人になっても耳がピンと立たず、垂れ耳のままになっていたり、尻尾がくるりと丸まっていたり、攻撃的で警戒心の強いグループに比べて、頭蓋骨が小さく、鼻面が短くて丸くなっていたり、脚の長さが短くなったのです。
これらは野生のオオカミと家畜化された犬に見られる違いとして知られています。
家畜化されたギンギツネたちは性格が大人しく従順になるだけでなく、見た目が大人になっても子供のような愛らしさを保っていたのです。
これは野生では見られない、まったく新しいギンギツネたちでした。