なぜこんなに家畜化が難しいのかというと、家畜化できる動物はいくつかの条件を満たしていなければならないからです。

その条件とは例えば、

・気性が穏やかで、元から比較的大人しいこと

・人が近くにいたり、飼育下に入れられてもパニックにならないこと

・いろんな餌に適応し、わりかし何でも食べること

・人目があったり、飼育環境下でもスムーズに繁殖してくれること

・子供から大人へと成長スピードが速いこと

などです。

そこでベリャーエフはこれらの条件を満たす動物を選び、人の手で集中的に交配を操作すれば、犬よりもずっと短いスパンで家畜化が起こるのではないかと考え、実験を開始しました。

そうして選ばれたのが「キツネ」です。

特にベリャーエフが選んだのは、黒と白の体毛が特徴的な「ギンギツネ(Silver fox)」でした。

キツネは元来、遺伝的にオオカミに近い動物であり、ギンギツネも野生個体では人への警戒心や攻撃性が強く、懐くような種ではありません。

ただベリャーエフは「犬の祖先もオオカミだし、キツネでもいけるやろ」と考えました。

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ギンギツネ/ Credit: en.wikipedia

ベリャーエフら研究チームはまず、比較的大人しく、か弱い性質を持っているギンギツネを集め、オス30頭・メス100頭で家畜化実験をスタートします。

そして翌1959年に最初の子供たちが生まれました。

生まれた子供たちには定期的に、どのくらい人懐っこくて大人しいかを評価するためのテストを行い、それをもとに3つのグループに分けています。

1つ目はかなり人懐っこくて大人しい性質を持つグループ。

2つ目は人に触られることは嫌がらないものの、それほど人懐っこくはないグループ。

3つ目は人懐っこくもないし、全然なつかないグループです。

さらにチームはそれぞれのグループごとに、同じ性質を持ったキツネ同士で交配を続けました。

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家畜化実験の様子(ギンギツネと共同研究者のリュドミラ・トルート女史)/ Credit: Lee Alan Dugatkin., Evolution: Education and Outreach(2018)