サルモネラは、T3SS-1(Type III Secretion System-1)とT3SS-2(Type III Secretion System-2)という2種類の分泌システムを使って、それぞれ細胞侵入と細胞内での生存を図ります。

これらの分泌システムは針のような構造(分泌装置)を持っており、その針を侵入先(宿主細胞)に突き刺して、侵入や免疫回避、細胞内での生存を助ける成分を注入します。

そして腸内の炎症を引き起こし、その結果として増加した酸素や硝酸塩、テトラチオネートなどを使って呼吸やエネルギー生成を行います。

その他にも様々な感染メカニズムを駆使して腸内でサルモネラが増殖し、最終的に食中毒をもたらします。

しかし、高濃度のSCFAと大腸の酸性環境が、病原体の酸素呼吸および硝酸塩呼吸による増殖を抑制し、その生存能力を打ち消すという研究結果もあります。

では一体どうやってサルモネラはSCFAによる防御機構を回避しているのでしょうか?

サルモネラは生存を有利にするため腸の栄養環境を操作していた

サルモネラは主に大腸で増殖しますが、増殖場所ではない小腸にも侵入することがわかっていました。

そのため、バウムラー氏らの研究チームは、マウスを使ってサルモネラがどのように小腸と大腸の栄養素バランスを変化させるのか追跡しました。

最初に、マウスに通常のサルモネラ(野生型、WT)とT3SS-1、T3SS-2が機能しない無毒性のサルモネラ(invA spiB変異体)を感染させ、大腸や血液中のアミノ酸濃度を調べました。

その結果、サルモネラの毒性因子が小腸の炎症を引き起こし、アミノ酸の吸収不良を招いているとわかりました。

病原体の細胞内でアミノ酸の脱炭酸が行われると、水素イオン(H+)を消費するためpHが上昇(アルカリ化)し、SCFAによる細胞内の酸化に対抗できるため、本来、小腸で吸収されるべきアミノ酸が炎症により吸収されず大腸に多く存在すると、病原体によって有利になると推測されます。