ループする世界で「祖父殺しのパラドックス」を回避する方法はあるのでしょうか?

実は、これまでの理論研究によって2つの解決策が提案されています。

1つ目は因果律の破綻を回避する方法で、

2つ目自己「無」矛盾(歴史修正力)によって過去改変を無効化する方法です。

後者の「自己『無』矛盾」では、何らかのメカニズムが働いて過去を変えようとする行為そのものを最終的に無効化します。

極端な例を挙げると、祖父を殺そうと銃の引き金を引いても、確率的介入により弾が発射されないアクシデントが起きたり、祖父に近づこうとするたびに偶然の事故に見舞われて姿を見ることすらできない──という可能性です。

つまり、「過去が変わりそう」な道筋があっても、物理法則がそれを阻んでしまうわけです。

Gavassino氏の新研究では、この「自己『無』矛盾」の可能性を、量子力学・熱力学・相対論という3つの理論を組み合わせて検証しました。

すると、量子力学的には「時間の終点を超えて始点に戻る際、初期状態と同じ量子状態に戻りやすい」ことが示唆されました。

たとえば、ループの最後で事故に遭ってボロボロだったとしても、境目を越えて初日の2000年1月1日にループすると、開始時と同じ状態に“復元”されるイメージです。

また、熱力学的な分析では、旅の前半こそ記憶や測定器のデータが積み重なる(エントロピー増加)ものの、後半では巻き戻りが起こり、ある地点でほぼすべてのエントロピーが初期状態に戻ることが示されました。

そうなると……記憶や情報の蓄積はエントロピー増加と密接に関わっているため、本来は不可逆とされる記憶形成すら後半で“巻き戻し”される可能性があるのです。

実際、Gavassino氏は論文中で、観測者がループ後半に差し掛かるにつれて得た記憶が量子力学的に“消去”されていくシナリオに言及しています。

これはSF的に言えば「過去の自分と会ったはずの記憶すら、最後には消えてしまう」ことを意味します。