ある日、何の前触れもなく古びた本が見つかったとしましょう。
ページには物語や理論が整然と記されているのに、どこにも著者の名はなく、執筆過程を示す手がかりもまるでありません。
あるいは、見知らぬ誰かが「自分は遠い昔からこの世界を見てきた」と言いはじめ、それがまるで異世界から来たかのように何の論理的根拠もない不思議な“記憶”に裏付けられている……そんな話は信じられるでしょうか?
おそらく多くの人は「SFの話」と思うでしょう。
しかしヴァンダービルト大学の理論物理学者Lorenzo Gavassino博士の新しい論文により、このような著者が存在しない本が“完成した状態”で出現したり、まったく根拠のない記憶を持った人が忽然と現れるといった事態が、ある種の量子力学的現象によって理論上起こり得る可能性が示唆されました。
この仰天シナリオの鍵を握るのがアインシュタインの理論から導き出された「閉じた時間的曲線(CTC: Closed Timelike Curve)」と呼ばれる、時空がループ状につながる仕組みです。
閉じた時間的曲線(CTC)をヒントにしたタイムトラベルは、昔からサイエンス・フィクションの定番であり、人類が抱く“時空を超えた旅”への好奇心は尽きることがありません。
マンガやアニメのように、過去へ行って歴史を変えてしまったらどうなるのか……。
あるいは、有名な「祖父殺しのパラドックス」のように、「自分の祖父が出会う前に祖父を殺してしまったら、自分はこの世に生まれないはずだ」という自己矛盾をどう整理すればいいのか――想像すればするほど、タイムトラベルには多くの謎とパラドックスが付きまといます。
しかし近年、一般相対性理論と量子力学、さらには熱力学の視点を掛け合わせて考察することで、「タイムトラベルがもし実現しても、そのパラドックスは自然に解消されるのではないか」とする研究が注目を集めています。