最新の研究でもパラドックスについて革新的な考えが導入されており「CTCを持つ世界ではループする時間軸全体でパラドックスが起こらないような強制力が働く上に、ループを通過した観測者や物質が最終的に必ず初期状態に戻され、記憶までも消失するため、いわゆる“祖父殺しのパラドックス”を含むあらゆる因果矛盾が起こらない」という大胆な主張を展開しています。

つまりタイムループした人が過去にどんな無茶を働こうとしても歴史修正力と初期化システムのダブルパンチによって、パラドックスが帳消しにされるわけです。

同様のタイムルーパーによる介入を起こそうとしてもパラドックスが無効化されるとの理論は2020年の研究をはじめ複数の論文にて示されています。

さらに新研究では、ループが起こる際には冒頭で述べた「著者がいない本」や「根拠のない記憶を持つ人」のような異常な性質を持つ物体や人物が、何もない空間から瞬間的に生成され得ることが一般相対性理論・量子力学・熱力学のいずれの原理も逸脱しないまま、上手く説明することに成功しています。

私たちが普段見慣れた「時間」の感覚は、いつも未来へ向かって一本道のように思えます。起きて、食事をして、仕事や勉強をして、そして年を重ねる――そうした時間の流れに疑問を抱くことは日常ではあまりないでしょう。

しかし宇宙レベルの視点で重力や量子現象を考慮すると、時間がループし得る可能性が全くの空想ではなく、理論的な道筋を持って語れるものであることがわかるでしょう。

本コラムではまず、なぜタイムトラベルやCTCが一部の理論物理学者によって真剣に議論されるのか、また祖父殺しのパラドックスがどうしてこれほど有名で重要視されてきたのか――その背景をおさらいします。

そのうえで最新研究が突き止めた「矛盾のないタイムトラベル」像や本の著者が見つからないまま“存在する”ことや、突然得体の知れない記憶を抱えたまま現れる人間像など、かつては純粋なSF的アイデアだった現象が理論的に説明され得ることを徹底解説していきます。

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