その問題は時空に関する欠点というより、むしろその中身に入っている物体や生命の活動に起因するパラドックスになります。
その代表と言えるのが「祖父殺しのパラドックス」と呼ばれるものです。
「もしこの閉じた時間曲線(CTC)の中で過去に戻って、自分が生まれる前の祖父を殺してしまったら、自分は存在しなくなるはずだ。だが、そもそも存在しないはずの“自分”はいったい誰が過去へ行ったのか?」
これはタイムトラベルを語るうえで、しばしば耳にする有名な思考実験です。
英語では “Grandfather Paradox” と呼ばれ、SFの題材としてはもちろん、哲学や物理学においても「過去へ干渉する」という行為がもたらす論理的矛盾を象徴する代表例として広く知られています。
実際、この発想は非常に刺激的で、私たちの因果律(原因と結果のつながり)に対する理解を根底から揺さぶります。
過去を変えれば未来も変わる、というのは直感的に当たり前のように思えますが、一方で「そもそも過去に戻る」こと自体が矛盾を生む可能性がある——これが祖父殺しのパラドックスの核心です。
タイムトラベルをめぐる物語では、しばしば主人公が過去を修正したり、歴史に介入したりして大騒動を引き起こしますが、現実の物理法則に照らしてみると、こうした「過去改変」が容易に認められるわけではありません。
ゲーデル解をもとに時間と空間については過去とのループを繋げられても、その中身が根本的な因果律に違反するなら、論理的破綻を起こしてしまいます。
こうして、祖父殺しのパラドックスは長らく「解決困難なSF的・哲学的パズル」であり続けました。
しかし、近年は量子力学と熱力学、さらには相対性理論をミックスした研究から、新たな視点でパラドックスに挑もうとする動きが高まっています。
そこで今回、ヴァンダービルト大学の理論物理学者のGavassino氏は「仮にCTC上を実際に旅できる宇宙船があったとしても、量子力学と熱力学が協調して、何らかの形で“矛盾”を回避してくれるのではないか」という仮説を検証することにしました。