そこで問題になるのが、「特定候補を当選させる目的で、他の有力候補を落選させることにつながる虚偽事項公表」が2項の適用対象になるのかという点である。
上記のように1項と2項を区別している趣旨からすれば、2項は、「特定候補の当選を目的としない、特定候補の落選だけを目的とする『純粋落選運動』」の場合に限定されるというのが素直な解釈だ。
私自身、2021年10月衆院選での「政治とカネ」問題での説明責任を理由とする甘利明氏の落選運動、2024年7月の東京都知事選挙での「カイロ大学卒」の学歴詐称問題を理由とする小池百合子氏落選運動、同年10月衆院選での「裏金問題」を理由とする丸川珠代氏の落選運動などで、「誰を当選させたい」ということは全く考えず、それぞれの理由で、各候補を落選させるための活動を行ってきた。
この場合、ビラ、チラシの配布等について制限は受けないので、「落選運動チラシ」を公開するなどしてきたが、その際、落選運動としての発言や配布する印刷物の内容について、落選目的の虚偽事項公表罪の適用があることを当然の前提として、「虚偽」「事実歪曲」などにならないよう細心の注意を払ってきた。そのような2項の規定を特定候補の当選目的の発言にまで適用することは慎重に考えるべきだろう。
しかし、「特定候補を当選させる目的」であっても、そのための手段として「他の候補者を落選させる目的で、その候補者に関する虚偽の事項を公にする」というのは、正当な選挙運動から逸脱しているとみることもできる。そのような目的が明確な場合、「選挙運動の自由」として保護の対象にすべきではなく、広範囲に「虚偽事項」を処罰する2項の対象となる、と解釈する余地もある。
235条2項の適用対象が、このような「純粋落選運動」に限られるのか、今回の選挙で問題になっているような、斎藤氏という特定の候補を当選させる目的でで、対立候補の落選を意図して虚偽の事項を公表する行為も含まれるのか、この点は、本件について虚偽事項公表罪による処罰を求める場合の、大きな問題点である。
「稲村候補に関して虚偽事項を公表した」投稿・発言に関する問題