その状況を大きく変えたのがSNS選挙である。SNSを活用すると、発言・表現が選挙において爆発的な威力を発揮する。「選挙運動の自由」を極力尊重しようとする公選法の規定だけで、SNSの威力から「選挙の公正」が守ることができない現実がある。

「選挙運動ボランティアの原則」との関係で言えば、従来は、選挙において不可欠なものとして、ポスター掲示、選挙カー運転のような機械的労務とウグイス嬢等だけについて例外的に対価支払が認められてきた。選挙で業務としてSNS運用に関わることが合法的に行える余地は小さい。

しかし、選挙運動におけるSNS活用の重要性が急速に増大する中で、SNS活用は候補者にとって不可欠になりつつあり、それに関連する業務についても一定の範囲で対価支払を認めるルール変更も検討する必要がある、それを、「選挙運動ボランティアの原則」とどう整合させていくのかが重要な論点となる。

虚偽事項公表罪の適用範囲

選挙に関する発言・表現に対する罰則適用の典型例が公職選挙法235条の虚偽事項公表罪である。

1項で、「(特定候補を)当選させる目的」の虚偽事項公表については、身分・経歴・政党の所属等に関するものに限定して処罰の対象とされているが、2項では、「(特定候補を)落選させる目的」の場合について、あらゆる虚偽事項の公表に加え、事実をゆがめて公表することでも処罰の対象とされている。しかも、法定刑が、1項については「2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金」であるのに対して、2項の犯罪については、「4年以下の禁錮又は100万円以下の罰金」とされている。

つまり、「落選目的の虚偽事項公表罪」は、「当選目的の虚偽事項公表罪」より、犯罪成立のハードルが低く、処罰は重く設定されているのである。

235条の1項は、誰かを当選させようとする通常の「選挙運動」についての規定で、場合には「口が滑る」ということもありがちなので、選挙への影響力が極めて強い「身分、経歴、政党の所属等の事項」等について虚偽の事項を公表した場合に限って処罰することとされている一方、2項は、特定の候補の当選を目的とせず、誰かを落選させるだけの目的の「落選運動」の場合であり、本来の選挙運動ではないから、そのような限定を外しても「選挙運動の自由」に対する制約は少ないということで、広い範囲が処罰の対象になっている。