今回の兵庫県知事選挙をめぐっては、斎藤氏のパワハラや公益通報者保護法への対応に関連して100条委員会が設置され、その後、県議会が不信任決議案を全員一致で可決し、それを受け斎藤氏が失職した後の選挙だったこともあり、選挙後も、斎藤知事派と反知事派との対立状況が続いており、公選法違反の成否についても意見が対立している。
公職選挙法の罰則適用については、一般には理解されていない解釈問題や運用上の問題があり、弁護士等でも、必ずしも正確に認識理解しているとは限らない。また、意図的に誤った見解をSNS等で拡散する弁護士もおり、公選法についての誤った認識が拡散することが懸念される。
そこで、兵庫知事選挙に関連する公選法の問題について、3回に分け、
(1)虚偽事項公表罪の成否に関する問題 (2)選挙運動の対価にかかる買収罪の成否に関する問題
についての基本的事項も含む解説を行った上、
(3)今回の選挙をめぐる問題を受けての公選法の改正の方向性
について私見を述べることとしたい。
本稿では、まず、(1)について述べ、その後、(2)(3)について順次、投稿していく。
前提として、公選法という法律の一般的な傾向として、まず述べておきたいのは、同法には、選挙運動の自由、表現の自由の保障との関係から、選挙に関する発言や表現の内容自体に対しては基本的に寛大である一方、選挙に関する金銭、利益のやり取り、すなわち、買収や利害誘導等に対しては、投票買収・運動買収を問わず厳しい態度で臨むという一般的な傾向があり、判例・実務も、それに沿うものとなっていることである。
選挙に関する発言・表現の内容が選挙結果を左右するというのは、民主主義にとって望ましいことであるが、旧来の公職選挙においては、選挙に関する発言・表現が選挙結果に影響する程度は低いのが現実であったので、それをもっと積極的に行わせることが公選法の目的に沿うとの認識があったと考えられる。