まず先に述べた量子力学が抱える最大の難問となる「測定問題」です。

通常の解釈では、測定によって波動関数が“収縮”し、重ね合わせ状態が一つの実測値に確定すると考えます。

しかし「なぜ観測の瞬間だけ特別なのか?」「その“収縮”とは具体的にどんな物理過程なのか?」と問われると、納得のいく説明は難しく、物理学者たちは長年、頭を抱えてきました。

多世界解釈は、この収縮という不可解なプロセスをそもそも導入しないことで問題を回避します。

観測者と被観測系の間で起きるのはあくまで通常の量子相互作用であり、そこから生じる重ね合わせの拡大が「世界の分岐」として解釈されるのです。

極論すれば「どんな状況でもどんな場合でもシュレディンガー方程式は破れない(収縮しない)ため、常にシュレディンガー方程式に従うだけでよい、というシンプルさ」があるわけです。

また古典物理学との相性の良さも人気の理由となっています。

古典物理の世界では、観測しようがしまいが結果は同じというスタンスをとります。

多世界解釈は重ね合わせは否定しませんが、重ね合わせ状態に対する干渉項目が事実上ゼロになる、つまり分岐した世界線同士が互いに干渉しなくなるため、観測者からは他の分岐が見えなくなり、自分のいる世界では結果として古典物理に従っているようにみえるのです。

さらに多世界解釈は小さな量子の世界と日常の大きな世界を連続的に考えることを可能にします。

「測定時の収縮」を省くことで、「どこからが量子でどこからが古典か?」という問題を回避できるのは大きな魅力と言えるでしょう。

そして先に述べたように、多世界解釈は最先端の宇宙論とも親和性が高いことも特徴となっています。

たとえば宇宙全体を一つの巨大な量子系としてみなしたとき、「ビッグバンの時点からすべての可能性が重ね合わさり、そのまま現在まで分岐し続けている」という壮大な絵が描けるのです。