この場合、宇宙のどこにも観測者や測定の特別な境界を設けることなく、さまざまな現象に対して純粋に量子力学を適用することが可能になります。
またもし波動関数が宇宙全体を記述するなら、複数の歴史や未来が同時に展開されることも不思議ではないことになります。
こうした視点は、現代の物理学者にとって新たな理論構築の可能性を示唆します。
たとえば、マルチバース理論(多宇宙論:注意・多世界解釈とは別理論)やインフレーション理論などとの組み合わせで、宇宙の始まりや構造を考察する際に、多世界解釈を意義深いツールとみなす研究者もいます。
これらの理由から、多世界解釈は「奇抜だけれども深い理論的整合性を持った解釈」として多くの人を魅了してきました。
観測時の不思議な収縮を排除できるシンプルさ、そして古典物理学や宇宙論との連続性を強調できる点が、高く評価されているのです。
人間で例えるならば「変わり者だけど変わり者なりに筋が通っている人」のようなものです。
そのような人は、使い方次第では社会に有益なように、物理学の世界でも多世界解釈の視点を道具として使うことで、理論的発展に有益となるのです。
理論としてもロマンがあり、理論ツールとしても強力であるとなれば、研究者目線でも人気が出て当然でしょう。
多世界解釈と保存則
これまで見てきたように多世界解釈は「量子力学における観測問題」を世界線の分岐という力技でスッキリと解決する大胆な理論です。
しかし、量子力学の問題は観測だけではありません。
観測問題ほど有名ではありませんが、実は量子力学には「エネルギーや運動量に対する保存則」にも問題を抱えていました。
古典力学や電磁気学、相対性理論など、近代物理の根幹を成す方程式群は、エネルギー保存や運動量保存を大前提としています。
たとえばある野球選手が野球場でボールを投げた場合、野球選手からはボールを投げるのに使ったエネルギーが失われます。