実際、ホーキングは、宇宙全体を量子力学的に扱い「宇宙の波動関数」を考えるアプローチを推進しました。これは、観測者を含むすべてを量子論で記述する多世界解釈的な発想に近い部分があります。

(※ホーキング自身が多世界解釈の信奉者という意味ではなく、彼の理論における波動関数の扱い方が多世界解釈に近いものがあるという意味です)

このように、多世界解釈は観測問題の説明として非常にシンプルかつ大胆です。

何しろ「収縮」という特殊な物理過程を廃して、波動関数の普遍的進化だけを認めればよいわけです。

しかし同時に、「世界が分岐して膨大な並行宇宙が存在する」という図式は、にわかには受け入れがたい壮大かつ哲学的なものとなりました。

にもかかわらず多世界解釈が、多くの物理学者や量子情報科学者から支持を集めているのは、後述するように測定問題や保存則といった量子力学の根本的な謎を“きれいに”統合できるためです。

次章では、なぜこのような魅力的な解釈がこれほど支持されているのか、その背景と理由をさらに掘り下げてみましょう。

なぜ多世界解釈は研究者にも「人気」なのか

なぜ多世界解釈は研究者にも「人気」なのか
なぜ多世界解釈は研究者にも「人気」なのか / Credit:Canva

なぜ多世界解釈が人気なのか?

SFファンの目線からみれば、基底世界を出発点にして分岐した世界線を旅する物語が魅力的に思えるからでしょう。

5秒前に分岐した世界、5年前に分岐した世界、50年前に分岐した世界……それぞれの世界を描くことそのものが、読者を惹きつけるからです。

さらにそこに主人公による「介入」ができたならば……それだけで妄想がいろいろ広がります。

しかし多世界解釈が量子力学の真面目な研究者からも支持を集めているのは、(当然のことですが)彼らが単にSFファンだからという理由ではありません。

研究者からも多世界世界が人気なのは、量子力学の測定問題をはじめ、理論全体のシンプルさや宇宙論との親和性など、いくつかの重要な要素があります。