量子力学は、電子などの状態を「波動関数」という数学的な式で記述します。

波動関数は「その物体(や粒子)が、空間のどこに、どんな状態で存在するかを表す“可能性の分布を示す地図”のようなものです。

この可能性の地図を使うことで小さな電子、巨大分子フラーレン、そして人間すらも波動関数として描くことができます。

「人間なんて大きくて重いし、原子の集合体だから、波動関数なんてあるの?」と思うかもしれません。

しかし理論上は「人間にも波動関数は存在する」と言えます。

そのため1個人であっても、2つのスリットを同時に通過することも「理論上は」可能となっています。

(※ただしその波動関数はものすごく大きくて複雑ものになり、実際に人間の波動関数を書き出すことは極めて困難となります。また人間のように巨大な物体は内部の原子同士が相互作用して容易に「観測」と同じ状況が起きてしまうため、人間を波にするのも極めて困難となっています)

重ね合わせの状態にあるとき、この波動関数は収縮しておらず、空間のさまざまな場所に存在確率が分布している状態にあります。

電子がいくつもの場所に“ぼんやり”と存在しているイメージとも言えるでしょう。

しかしいざ観測を行うと、「その電子がここにいた!」と、突然、はっきり定まってしまいます。

これを「波動関数が収縮した」といいます。

また別の言葉では、量子的状態が崩壊したとも表現されます。

どちらにしても、重ね合わせ状態が、一瞬にして“ひとつの場所”や“ひとつの状態”へと絞り込まれるのです。

つまり波動関数の収縮とは、本来ならいろいろな可能性が同時に存在するはずの状態が、観測した途端に、ひとつの“実際の結果”へと確定してしまうように見える現象とも言えるでしょう。

この「収縮」は物理学者の立場でも議論が絶えず、根本的な疑問を生み出してきました。「測定装置が量子系に触れると何が起きるのか?」「観測とは何が決め手なのか?」など、数多くの解釈や理論的議論が展開されてきたのです。